電源 IC の評価方法(第1回)

電源 IC を用いて電源回路を設計する際、仕様書に記載されている特性を理解し、それがどのようにして評価されたものかを理解して おくことは、受動部品の選択・基板設計・発熱対策・また電源 IC の性能を最大限に発揮させるために、非常に重要なことになります。

ここでは DC/DC スイッチング レギュレータ(電源 IC)の評価方法について説明していきますが、もちろん一般的な DC/DC コンバータの評価にも応用することができます。

電源 IC のイメージ

評価に必要な測定器

全般的に、電源ICの評価を行うには、電源装置・負荷装置(純抵抗器・電子負荷・容量性負荷)・パワーメータ・電圧/電流計・オシロスコープ (AC/DC 電流プローブ)・サーモストリーム・周波数特性分析器等が必要になりますが、測定項目によっては、この他にも必要になることでしょう。 (表1)

  DC/DC 電源IC・Battery Charger メモ
電源装置 • DC 電源ユニット 1) 評価を行う製品の過電流制限以上の電流供給能力がある事。
負荷装置 • 純抵抗器
• 電子負荷
• 容量性負荷
1) 評価を行う電源の最大出力電圧・電流・電力に耐えられるもの。
2) 定電流、定抵抗、定電圧モード機能付、パルス負荷変動機能付。
3) 評価を行う電源の仕様を確認できるもの。(容量、耐電圧、ESR)
測定器 • パワーメータ 1) 評価を行う電源の最大出力電圧・電流・電力に耐えられるもの。
測定器 (共通) 電圧計、電流計、オシロスコープ、プローブ、AC/DC電流プローブ、サーモストリーム、周波数特性分析器等

表1

測定器の選択には、評価される電源ICの性能以上の十分な電流/電圧/電力能力、サンプリング能力とメモリー量等々を十分に考慮してください。 評価・測定の際には、意図しない短絡や発熱はあたりまえのように発生します。特にオシロスコープや電流計は、過電流・過電圧耐量を確認してください。 これにより、ICやKitの損傷だけでなく事故の防止にもなり、また効率的な評価を行う事ができます。また、電源ICを測定するためのDEMO Kitやソケットは、 必須です。

DC/DC スイッチング レギュレータの静特性確認

一般的な電源ICの静特性としては、以下の評価項目があります。(表2)
同様な製品に、Li-ion Battery Charger ICやLED駆動ICなどがあります。以下、測定方法について記載解説をします。

  評価項目 測定方法 測定図
漏れ電流 停止時入力電流 コンバータ停止時の入力漏れ電流を測定(出力端子は開放状態) 測定方法1
暗電流 無負荷時入力電流 無負荷時の入力電流を測定(出力端子は開放状態)
出力電圧精度 出力電流変動 電子負荷などで出力電流を変化させた時の出力電圧の変化を測定
入力電圧変動 入力電圧を変化させた時の出力電圧の変化を測定
動作温度変動 動作環境温度を変化させた時の出力電圧の変化を測定
リップル、スパイク
電圧
出力電圧 出力電流、入力電圧、温度を変化させた時のリップル、スパイクを測定 測定方法3
入力電圧 出力電流、入力電圧、温度を変化させた時のリップル、スパイクを測定
リップル電圧
(ダイナミック変動)
パルス負荷変動 出力電流をダイナミック(パルス的)に変化させた時のリップルを測定
パルス入力電圧変動 入力電圧をダイナミック(パルス的)に変化させた時のリップルを測定
変換効率 負荷電流変化 電子負荷などで出力電流を変化させた時の変換効率を測定 測定方法1
入力電圧変化 入力電圧を変化させた時の変換効率を測定
温度変化 動作環境温度を変化させた時の変換効率を測定
スイッチング周波数 スイッチング周波数 スイッチ・ノードを観測して、スイッチング周波数を測定 測定方法2
スイッチノード波形 スイッチ・ノードやインダクタ電流を観測し、異常が無いかを観測
安定性 位相余裕の測定 周波数特性分析器を用いて電源の安定性を測定する 測定方法4
(Li-Ion充電回路) 定電流垂下特性 電子負荷の定電圧モードを使用し、定電流特性カーブを測定する 測定方法5

表2

測定方法1:漏れ電流・暗電流・出力電圧精度・変換効率

  1. 電圧計、電流計の接続に注意して図1のように接続します。
  2. 電源側はリモートセンシングを使うことを推奨します。
  3. 軽負荷時の入力電流測定は、電流計の AC+DC レンジを使用するか、入力端にコンデンサを追加し、平均電流を測定する必要があります。
  4. Vo は PGND (Power Ground) を基準にします。

注意

  • 電源によっては、リモートセンシング回路に電流が流れる場合があります。効率測定時の入力電流測定には注意が必要です。
  • 微小電流/電圧を測定するには、十分にノイズを考慮した環境が必要になります。
図1 測定方法1

図1 測定方法1

測定方法2:スイッチング周波数

  1. 図2のように接続し、スイッチ・ノード(SW)の波形観測、インダクタ電流の観測をします。
  2. 電源側はリモートセンシングを使うことを推奨します。
  3. SW の波形観測を行う場合には、オシロスコープの GND を PGND に接続します。

注意

フィードバック系ラインにノイズが加わるような回路を構成すると正しい測定ができません。
むやみに、フィードバック端子にプロービングしたまま測定をしないようにします。

図2 測定方法2

図2 測定方法2

確認:スイッチ・ノード(SW)の波形とインダクタ電流の観測

一般的なDC/DC スイッチング レギュレータとして、

1) 降圧(同期整流)

図3

図3

2) 降圧(非同期整流)

図4

図4

3) 昇圧

図5

図5

4) 極性反転

図6

図6

の各スイッチ・ノードの電圧波形とその制御信号、また、インダクタ電流がどのように観測されるのかの例です。

実際の評価・観測時には、これらの観測波形と仕様を注意深く追うことが必要になります。例えば、インダクタの飽和現象があります。(図7) 図7のようなインダクタ電流が途中から急激に上昇する場合、インダクタが磁気飽和を起こしていますので di/dt が一定になるようなインダクタの 変更または駆動方法の検討が必要になります。

図7

図7

測定方法3: リップル・スパイク電圧

  1. リップル、スパイク電圧(スタティック)は、入力電圧や出力負荷電流を DC 的に変えた時の出力電圧(Vo)を観測します。 (ロードレギュレーション)
  2. ダイナミック評価は、出力端子に電流パルス(IOUT)を印加したときの出力電圧(Vo)と負荷電流を観測します。 パルス負荷変動装置は、 スピードが不要ならば、FET 等を使った簡易的な定電流回路で代用できます。
  3. 電源側はリモートセンシングを使うことを推奨します。
図8 測定方法3

図8 測定方法3

1) 図9は、スタティックのリップル、スパイク電圧波形です。 リップルとスパイクの違いが分かると思います。 (①) リップル電圧は、インダクタ電流の ΔI やインダクタの ESR が大きいほど大きくなります。負荷容量を増やしたりスイッチング 周波数を速くすることでも改善はできますが、基板面積の増大や効率の低下を招きます。スパイクは、測定系のオシロのプロービングに 多くの場合問題があります。出力容量の両端子を跨ぐようにプロービングしてください。(参考:プロービングの方法) それでも収まらない 場合は、電源 IC 内部の問題として捉えられます。
図9

図9

2) 図10はダイナミック時の観測波形です。負荷が急変した時を想定しています。入出力電源波形の アンダーシュートやオーバーシュートが問題にならないかを確認します。(①) IOUT の定常時(変化していない部分)の VOUT は、 スタティックと同様になります。
図10

図10

3) 図11は、入力電圧をパルス状にして印加し、VOUTを観測しています。(パルス入力電圧変動)アンダーシュートや オーバーシュートが問題にならないかを確認します。(①)
最近では、電源 IC の入力電圧は User が決めることもあり、比較的安定しています。
図11

図11

測定方法4: 安定性(位相余裕)

  1. 周波数特性分析器が必要になります。比較的高価ですが使用頻度が低い物かもしれません。また、高耐圧が必要な場合、測定機器の耐量に 注意してください。出力電圧を決めるフィードバック系にRi(50Ω程度、Ri<<Zi)の抵抗を挿入し、そこに AC 信号を注入し、利得と 位相を観測します(電源 IC は通常動作)。
  2. 信号発生器とオシロスコープまたはネットワーク・アナライザを使っても同様の測定はできますが、ノイズに敏感なフィードバック系に回路を 設置するので、精度良く測定するのは意外と大変です。簡易設計ツールなどで、事前にループゲインや位相などの特性を把握しておくと良いでしょう。
図12 測定方法4

図12 測定方法4

測定方法5: Li-ion Battery Charger コンバータ(例)

  1. Li-ion Battery Charger ICは、定電圧機能に加えて特に、定電流機能も備えています。 測定には、電子負荷(定電圧・定電流・定電力・定抵抗・ パルスモード)を使うことが有効です。(図13)
  2. 電源側はリモートセンシングを使うことを推奨します。
図13 測定方法5

図13 測定方法5

  1. CV(定電圧)特性:充電終止電圧にて電圧が一定である事が好ましい。
    CC(定電流)特性:VBAT に依存せず一定である事が好ましい。(図.14)
図14

図14

参考:プロービングの方法

高速な信号を測定する際、プローブGNDの取り方により観測される波形にノイズが乗ったり歪んだり、正しい波形と大きく異なる場合があります。 特に、大電流を扱う出力段においての対処方法として、

  1. プローブの GND を、オシロスコープのACプラグのアースからフローティングにします。
  2. プローブの先端キャップを外し、先端(Tip)と GND 胴部(Barrel)をコンデンサと最短になるように 接触し、プローブの抵抗及び インダクタンス成分を小さくして測定を行います。
    ※ 記事「オシロスコープの測定技術」 第1回 および 第2回をご参考ください。
  3. 必要に応じ、オシロスコープのフィルタ機能を使って測定します。
図15 プロービングの方法

図15 プロービングの方法

次回、「電源ICの評価方法 第2回」では、よりアプリケーションに近い評価について学んでみたいと思います。ご期待ください。

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