空中映像・空中ディスプレイ」を
実現する光学素子について

次世代映像技術として、空中映像・空中ディスプレイが実用化に向けて注目されています。今回は、空中映像・空中ディスプレイを 鏡の特性を生かし、ナノ加工技術で実現する光学素子の仕組みと特徴を説明致します。

空中映像・空中ディスプレイ

空中映像・空中ディスプレイを実現する光学素子について

何もない空中に映像を表示する「空中ディスプレイ」を実現する方法の一つに、2面コーナーリフレクタアレイが挙げられます。今回は2面 コーナーリフレクタアレイの仕組みと特徴、応用事例をご紹介いたします。

2面コーナーリフレクタアレイの仕組みと特徴

2面の垂直鏡面が直行配置された状態、すなわち2面コーナーリフレクタを、一定間隔で平面内にアレイ配置した構造を持つ結像光学が2面 コーナーリフレクタアレイです。例えば、透明材料により作られた凸状の側面を反射面とする、などの方法で実現されています。以下、模式図を 示します。なお、生産性の観点から垂直鏡面の反対側をテーパー面とすることがあり、テーパー面は空中映像の結像に用いることはできません。

図1 2面コーナーリフレクタアレイと光線の様子の模式図 左図:上面図 右図:側面断面図

図1 2面コーナーリフレクタアレイと光線の様子の模式図 左図:上面図 右図:側面断面図

図1左図に示すように、上面図方向で見たとき入射光の一部は各垂直鏡面で 1 回ずつ、合計2回反射されて出射します。このとき、隣り合う 垂直鏡面のなす角が 90°であれば、この平面内では入射角と出射角が等しくなり、光線は元来た方向へ帰るように見えます。一方、図1右図に 示すように、側面断面図方向から見ると底面から入射した光線は垂直鏡面で反射されて頭頂部から出射することで、光源と面対称の位置に 集まるように見えます。

図2 2面コーナーリフレクタアレイによる面対称位置結像の模式図

図2 2面コーナーリフレクタアレイによる面対称位置結像の模式図

これらを合わせて考えると、図2に示すように光源の面対称位置に光線が集まり、空中映像が結像されることになります。単位光学素子の拡大図に 示すように、それぞれの2面コーナーリフレクタ中で2回反射された光線が空中映像の結像に寄与します。

一方、上記の2回反射をする光線以外に、1回だけ反射する光、3回以上反射する光も存在しますが、これらは空中映像の結像に寄与せず迷光や ゴースト像として観察され、空中映像観察の妨げとなります。光線が2回反射するかどうかは2面コーナーリフレクタアレイへの入射角に大きく 依存し、視界制御フィルムなどで入射角を制限することで迷光やゴースト像を抑えることができます。また、光源と2面コーナーリフレクタ アレイの間隔を広げることで、観察者の目に入る2回反射光とそれ以外の光を分離することでも対処できます。また、垂直鏡面で反射されること なく透過する光線は、当然、空中映像の結像に寄与しません。このように、空中映像として使える光線の割合は入射光の一部だけであり、光源の 輝度に対する空中映像の輝度を“透過率”として表すことができます。透過率は2面コーナーリフレクタの高さやピッチの設計に依存しますが、 本校執筆時点の量産設計の典型値では入射光線の 10% ~ 15% 程度であり、空中映像をはっきりと綺麗に表示するためには高輝度の液晶 ディスプレイなどを光源として用いることが推奨されます。

また、空中映像の結像に寄与する光線が目に入る位置でのみ空中映像を観察できるため、空中映像の背景には2面コーナーリフレクタアレイが 必要である点に注意が必要です。2面コーナーリフレクタアレイのサイズいっぱいの空中映像を表示すると、観察者がわずかに動くだけで観察可能 範囲から外れてしまい、空中映像が途切れて見えるため浮遊感が極端に小さくなってしまいます。表示する空中映像より一回り大きいサイズの 2面コーナーリフレクタアレイを用いることが推奨されます。

応用事例

空中映像は表示だけでも SF・近未来感の演出などに使うことができますが、赤外線センサーなどの非接触センサーを組み合わせることで空中映像を 触って操作する空中スイッチ・空中タッチディスプレイが実現でき、用途が拡大します。応用例を図3、図4に示します。

図3 空中スイッチ

図3 空中スイッチ

図4 空中タッチディスプレイを操作している様子

図4 空中タッチディスプレイを操作している様子

エンターテイメント性に優れるだけでなく、実物への指の接触がなくなるためウィルス等の接触感染対策として有効です。図4の例では、 空中浮遊感を強く与えるためにタンポポ以外の背景を黒にしています。また、空中映像に触れたかどうかを操作者に伝えるため、指がタンポポの 綿毛を表示している位置に来たとき、タンポポが揺れて綿毛が飛ぶと同時に効果音が流れるようにしています。単に空中映像を表示するのに 比べて臨場感を強く感じることができ、視覚と聴覚によるフィードバックにより、空中映像に触って操作しているという感覚を強めることができます。

今回は、弊社の協業パートナーである NICT(情報通信研究機構)発ベンチャー企業/パリティ・イノベーションズ様のご協力で 『パリティミラー®』の仕組みや特徴、応用事例の説明をさせて頂きました。

弊社では、次世代技術の実用化に向け、空中映像・空中ディスプレイに最適な各種電子部品、またインタラクティブにする為のセンサーを中心に ご提案させて頂きます。

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