オシロスコープの測定技術
第1回:プローブ

デジタルオシロスコープは、時間的に変化するアナログ電気信号を高速でサンプリングし、 デジタル化された信号により様々な演算処理や解析・LCD 画面への表示・測定データの保存等々を行えます。半導体の急速な能力の向上もあり、 従来のアナログオシロスコープには出来なかったトリガ以前の波形観測や同時多現象の観測が、比較的安価に行う事ができます。

オシロスコープ測定のイメージ

さて、オシロスコープですが、入力されたアナログ電気信号(観測波形)が正しければ、その後の処理は単にユーザーのオシロスコープの設定に依存し、特に観測の失敗に繋がるようなことはありません。つまり、使い方さえ理解できていれば、スマホを操作するのと基本的には同じ要領で、波形の観測は可能になります。

一般的に、アナログ電気信号を観測するには、センサーとしてプローブを使用します。
従って、信号を捉えるセンサーである『プローブ』を使った観測方法を誤れば、プローブ系自体がノイズ源となり、高精度のオシロスコープであればあるほど、それが捉えた観測波形は、どんなに高度な信号処理がされてたとしても元の観測波形とは違う物であり、吟味の対象とならないデータということになります(図1参照)。

図1

図1

それでは、その重要な『プローブ』、特にパッシブプローブについて下記の2回に分けて考えてみたいと思います。

第1回:プローブ
第2回:オシロスコープの立ち上がり時間と帯域

1.プローブについて

a. プローブの回路モデル

オシロスコーププローブの仕様・特性は、各メーカーにより異なっています。また、オシロスコープには、用途に応じた指定のプローブを用意する 必要があります。指定外のプローブを使うと周波数特性の保証できないため、実質的に使えません。
さて、図2は、10:1 のパッシブプローブ(~10MHz 程度)の回路モデルの例です。なお、各メーカーにより数値は異なりますので、製品仕様を 確認してください。

図2

図2

b. DC~ 低周波数時の振る舞い

電気回路の基本動作を知る手立てとして、DC 信号の場合、周波数成分がない(ゼロ)と考えることができ、
   コンデンサは、Open(インピーダンス;無限大)、
   インダクタは、Short(インピーダンス;ゼロ)
として回路を単純化し動作を確認します(DC 動作点の確認)。

また、100Ω << 1MΩ<9MΩ なので、100Ωを無視すると、図3 のようにプローブの回路モデルを描きかえることができます。
これより、VIN = {Ri /( Rp + Ri) } x Vprobe+ = 1/10 x Vprobe+
つまり、10:1 のプローブが出来ていることがわかります。

図3

図3

c. 10MHz 時の振る舞い

AC 動作を確認するばあい、このプローブの場合、10MHz 程度の信号に対し、コンデンサは、低インピーダンスとなり、Rp を無視できます。 また、インダクタンスは数Ω程度になりますが、全体的に抵抗同様に無視できます。従って、プローブの回路モデルは 図4のようにコンデンサ 回路として描きかえることができます。
ここで、

Cp : (CS+Ct+Ci) = 1:9

になるようにCtを調整・補正すると、 VIN = 1/10 x Vprobe+ となり、10:1 のプローブが出来ることがわかります。

このプローブで 10MHz 以上の信号を観測すると、インダクタの影響を無視できなくなり、実質 10:1 を保証することはできず、振幅の小さな信号になります。

図4

図4

2. 10:1 プローブ

波形観測において、センサーを設置したことが被観測物の動作に大きな影響を及ぼしてはどうしようもありません。つまり、オシロスコープの プローブは、被測定物に与える影響を可能な限り小さくする必要がり、オシロスコープ側(プローブを含めた測定装置側)のインピーダンスを 高くすることにより、被観測物の動作に影響を与えないようにすることが大切です。

オシロスコープの入力抵抗 Ri = 1MΩ である場合、10:1 のプローブを接続することにより、直列抵抗が 1MΩ から 10MΩ になることは、 前述の回路から簡単にわかります。

また、オシロスコープの入力容量も Ci = 20pF ですが、プローブを接続することにより直列に容量が接続されるので、入力容量も低く (インピーダンスは高く)なります。

もちろん、10:1 でも被観測物の動作に影響を与えてしまうことはあります。

最近のオシロスコープは、どのようなプローブが接続されたかを判断し、自動で補正(キャリブレーション)を するものもあります。波形測定おいては、オシロスコープの仕様だけでなく、使用するプローブの仕様を一見しておくことも必要でしょう。

3. プローブの扱い(GND の取扱い)

波形観測において、

リードや配線、基板配線等々のインダクタンスをざっくり 1.5nH/mm として考えます。一般的なプローブの GND ライン長は、150mm 近くあり、 インダクタンス (L) は 225nH もあります。また、プローブ自身入力容量10pF(C)前後をあるので、LC共振回路を構成します。
これにより、観測波形の周波数が高くなると $$ f_0 = {1/2 \pi \sqrt{LC}} $$ の共振周波数がノイズとして観測されてしまいます。

対策は、共振周波数を観測波形・測定系の持つ周波数帯域(例えば 100MHz)より十分高くし、帯域外に押しやります。実際には、GND 長を短く したり、入力容量の小さいプローブを使うことになります。

上記の場合、共振周波数 $$ f_0 = 106MHz $$ になります。

そこで、GND ライン長を 10mm にすると 290MHz となります。また、GND ラインの代わりにスプリンググランド等を使うと共振周波数は 400MHz 以上になり、リンギング等のノイズの無い綺麗な波形を観測することが出来ます。

次回は、「オシロスコープの立ち上がり時間と帯域」について考えてみたいと思いますので、お楽しみください。

PDF 資料請求

オシロスコープの測定技術第1回:プローブ(PDF版)

Global Design Notes について

Global Design Notes は、エンジニアのための役立つ技術情報を掲載した WEB 連載です。

  • 発行元:グローバル電子株式会社
  • 公開メディア:WEB および PDF

Design Notes 一覧